戦略日記
思考を鍛える場所 #285
先日、戦略社長塾を終えた経営者が、会員制の経営実践ジムを見学されました。見学後の第一声は、「正直、頭が疲れました。」理由を伺うと、こう続きます。「皆さんの議論がすごく高度で…。MQ会計のPとかQとか、ランチェスター戦略の用語が普通に出てきて、今まで体験したことのない感覚でした」
この感想は、とても象徴的で、そして極めて良い反応です。なぜなら、それは「分からなかった」という話ではなく、これまで使ってこなかった思考を使ったという証だからです。ランチェスター戦略の各種勉強会での議論は、感覚の経営ではありません。
例えば、売上が落ちたとき。多くの現場では、「最近ちょっと厳しいですね」「景気が悪いから仕方ないですね」という会話で終わる場合があります。
戦略MQ会計だと、それはQの問題なのか。つまり、接点が減っているのか。それともPの問題なのか。価格戦略が崩れているのか。あるいは、そもそも「どこで・誰に・何を」という戦略自体がズレていないか。こうして、現象を構造に分解し、言語で捉え直していくのです。
当然、初めて触れる人にとっては負荷がかかります。今まで「なんとなく」で判断していたものが、一つひとつ問い直される。頭が疲れるのは、当たり前だと思います。しかし、この疲れの正体は、単なる情報過多ではありません。
思考の精度が一段上がることによる疲労です。そして、ここが重要です。この「疲れ」を感じた人は、伸びます。なぜなら、自分の思考の枠を超えた瞬間だからです。逆に、楽に感じる場であれば、それは今までと同じ思考の延長線上にいるに過ぎません。
しかし、回数を重ねるごとに、その言葉は自分の中に入り込み、やがては自社を語る“共通思考”と“共通言語”になります。正に量稽古と言えます。そして面白いのは、最初は「専門用語」に聞こえていたものが、次第に“現実を見るレンズ”に変わっていくことです。
「そこはPを下げるよりMを守るべきでは?」「そもそも戦う場所を広げ過ぎではないか?」こうした会話が、特別なものではなくなっていきます。つまり、感覚や勢いで経営を語るのではなく、構造で経営を捉えるようになっていくのです。これは単なる知識の習得ではありません。“経営者としての物の見方”そのものが変わっているということです。だからこそ、経営判断に再現性が生まれます。
社長の気分や勘だけで判断するのではなく、「なぜそう考えるのか」という判断基準が社内に蓄積されていく。すると、社員との会話も変わります。会議も変わります。日々の意思決定も変わります。
そして、経営が少しずつ「属人的な経営」から「構造的な経営」へと変わっていくのです。多くの中小企業経営者は、戦術に偏重しています。Instagram、YouTube、AI、営業トーク、販促テクニック。もちろん、それらも大事です。
しかし、その前に本来必要なのは、「どこで・誰に・何を」という戦略を考える“頭の使い方”です。経営実践ジムは、ノウハウを増やす場所ではありません。戦略をつくり再現性の高い経営の実践を繰り返す場です。経営者は思考を鍛える場に身を置くことが問われます。