戦略日記

成功事例収集マニア社長 #176

成功事例収集マニア社長 #176

戦略コンサルタントとして様々な会社を訪問していると、「他社ではどのように行っていますか?」「成功事例はありますか?」といった質問を受けることが多くあります。

社長にとって、自社の取り組みが世間からどのように評価されているのか、他社がどのような成功事例を持っているのかは、大変関心のあることでしょう。他社の成功事例を様々な形で情報収集しようとする気持ちは理解できます。もちろん、他社事例には有益な情報が多く、自社と比較することで、自社の強みや弱みを把握することができます。

しかし、ことあるごとに「他社の成功事例がほしい。」と口にする社長もいます。経営の根幹となる要因や戦略の基礎知識を理解しなければ、事例会社の真意や価値を理解することはできません。どれだけ説明しても耳を貸さず、「とにかく事例が欲しい」と繰り返す社長もいます。

成功事例セミナーや講演に次々と参加し、他社の事例を聞きかじると、「これは良い!」とばかりに社員を巻き込み自社に導入するものの、なかなか上手くいかずに立ち消えになってしまう。そして、また次の成功事例を追いかけていく。これは、上位上流の経営戦略を理解していない状態で、表面的な戦術を部分的に行っても成果に繋げられないからです。

このような成功事例収集マニア社長は、「隣の芝生は青く見える」心理に陥っています。自分の家の芝生は目の前で見るので傷みがすぐにわかりますが、他人の家の芝生は遠くから眺めるので傷みがわからずに、綺麗に見えるという比喩です。他社の成功事例は、実際よりも良く見えてしまうのです。

「成功事例に再現性はない。」という格言があります。成功した会社の事例をどれだけ聞いたり、集めたとしても自社に再現することはできないのです。企業を取り巻く環境、規模、戦略、仕組み、戦術実行など同一条件として完全コピーすることは不可能だからです。

時が経ち、社長の机には陳腐化した事例集が山積みになっているケースも少なくありません。事例集をもらった時だけパラパラと見て、後は埃の温床となるのが落ちです。経営者ならば、成功の源は遠いところにあるのではなく、一番近い足元にあることを知らなければなりません。