戦略日記
社員に経営者意識を求めるな #210
『社内会議などで社長から「経営者意識を持って」とか「将来のビジョンを持って」とか言われても無視しなさい。「経営者意識」とか「将来のビジョン」なんてトップの仕事。少ない給料のあなた達が考えることはありません。寝たふりでOKですよ』
これは、某上場企業の中間管理職として勤めていた人がコメントしたものです。最初に見た時、思わず笑ってしまった私がいました。なぜなら、昔、社員をたくさん雇用していた時代に全く同じようなことを言っていたからです。経営者の勉強会においても、同様に言っている社長は多数存在します。
辞書で「意識」を調べてみると、「心が知覚を有しているときの状態」「物事や状態に気づくこと」「政治的、社会的関心や態度、または自覚」とあります。
そもそもの話で言うと、経営者でもないのに社員が経営者意識を持つことは到底、無理な話です。根本的な役割と立場が違っているのに、「経営者意識」と称して、社員に押しつけがましいことになっていることを知った方が良いと思います。
では、なぜ経営者は「経営者意識」を求めるのでしょうか?
「経営者は、君たち社員のことをいつも考えている。資金のことや売上をいかに伸ばして会社を発展させようとしている。日夜奮闘しているのだ。」などと言わんばかりに感じます。「社長の苦労を理解して共感してほしい」という深層心理が見え隠れしますが、これは経営者のエゴに過ぎません。
経営者自身が経営活動において最も重要である戦略を描くことを放棄し、その責任を社員に依存していることになります。本来、 戦略を策定し、全従業員を含めた会社を導くのは、経営者の最大の仕事 です。
しかし、多くの経営者が日々の業務に追われ、これらを理由に戦略を考えることから目を背けています。そして、「社員がもっと主体的に動いてくれれば…」と、責任を転嫁しています。社員にできることは、戦略に基づく与えられた役割の中で、戦術として最大限のパフォーマンスを発揮することです。経営戦略を考えるのは、経営者の仕事です。
社員に「経営者意識」を求めるのではなく、 社長自身が会社を成長させるための道筋を描き、戦略実力を高めるための研究をし続けるより他ないのです。これこそが社員一人ひとりの幸福に繋がるのではないでしょうか。なぜなら、社員の幸福は、会社の運命を決める経営者の戦略にかかっているからです。
昔の私自身が大変恥ずかしいことであったと深く反省すると同時に自戒の念を込めて、社員に「経営者意識を持って」とか「将来のビジョンを持って」と言っているようでは、経営者としては甘く、社長自身の意識が低く責任放棄をしているといっても過言ではありません。