戦略日記

経営者のバイアス #211

経営者のバイアス #211

経営者同士が議論している中で「自分自身の殻を破る」と聞くことがあります。自己変革の重要性を説いている表現かと思います。

私たちは、これまでの経験や教育、周りの環境などによって知らず知らずのうちに様々なバイアスを形成しています。これらのバイアスは、私たちの思考や行動を制限し、新しい可能性を閉ざしてしまう「殻」のようなものと言えるかもしれません。

バイアスとは、偏った見方や考え方のことです。多くの人が「事故や災害は自分には振りかかってこない」とか「自分は大丈夫だろう」と考えてしまう心理に似ています。

例えば、経営者は往々にして「自社が倒産するわけがない」というバイアスを持っていることがあります。「自分が経営する会社は、永遠に存続し、倒産するなど露ほども思っていない」これは、正常性バイアスや楽観性バイアスといった認知バイアスの一種と言えます。

正常性バイアスとは、「自分だけは大丈夫」「悪いことは起こらない」と思い込む心理的な傾向です。 過去の成功体験や、現状が安定している状況などが、このバイアスを強める要因となります。楽観性バイアスは、将来に対して過度に楽観的な見通しを持つ傾向です。 自分の能力や市場の成長性などを恣意的に過大評価してしまうことでリスクを軽視してしまうことにつながります。

正常性バイアスに陥ると、市場の動向や競合の出現といった変化の兆候を見逃し、対応が遅れてしまう可能性があります。また、楽観バイアスは、過剰な投資や事業拡大につながり、経営を悪化させる可能性があります。

経営者のバイアスは、固定観念や盲信へと繋がっていきます。例えば、過去30年間のデフレ経済環境下で事業を行ってきたため、「販売価格は下げて、数量は上げていくもの」「売上は年々、増やしていくもの」と考えている人は数多です。人口は減少の一途をたどり、市場は細分化され人の採用は厳しい状況の中で、このような固定観念は盲信であると言えます。

過去の成功体験は、貴重な財産ですが、同時にバイアスを生み出す温床となる可能性も秘めています。「あの時、うまくいった方法だから今回も大丈夫だろう」という思い込みは、変化への対応を遅らせ企業の成長を阻害する可能性があります。

経営者は、企業の未来を担う存在です。バイアスの危険性を常に認識し、持続可能な経営戦略を構築してこそ「殻」を破ったと言えるのではないでしょうか。