戦略日記

現状維持では衰退する #256

現状維持では衰退する #256

経営の世界でよく言われる「現状維持は衰退」という言葉。これは決して比喩ではなく、経営の現場における厳然たる事実です。

多くの中小企業経営者が「昨年並みでいい」「横ばいなら上出来」と考えます。しかし、現状維持こそが、じわじわと衰退の始まりとなります。なぜなら、世の中は止まりません。市場は常に変化し、顧客の価値観は移り、コストは上昇し、競合は次の手を打っているからです。つまり、自社が動かないということは、実質的に後退しているということになります。

実際、売上が前年と同じでも、仮に市場全体が10%成長していればシェアは10%減少しています。さらに物価や人件費の上昇分で実質利益は減り、そこに競合の攻勢が加われば、顧客の心のシェアも奪われます。この積み重ねが、結果として「現状維持=30%ダウン」の現実を生み出しているのです。

この“守るためには攻めよ”という考え方の源流は、古代中国の兵法書『孫子』にあります。

「守を以て不足を為し、攻を以て余を為す」
(守りは力の不足から生まれ、攻めは力の余裕から生まれる)

守りに徹する組織はやがて力を失い、能動的に攻める者こそが勢いを保ち、防衛すら可能にするという意味です。

ランチェスター戦略でも、弱者が強者に勝つ唯一の方法は「一点集中の攻撃」であると説かれています。守ることは止まることではなく、攻め続けることでしか守れないという、攻守一体の法則です。

経営もまったく同じで、守りのためにコスト削減だけを行っても、それは一時的延命策にすぎません。真の防衛は、「商品」「地域」「客層」のどこかで能動的に戦略攻勢を仕掛けることによってしか成立しません。

時代は変わり、競合も変わります。「現状維持でいい」と口にした瞬間から、企業の経営活動における時計は逆回転を始めます。現状維持とは、退化の別名と言えます。

変化に挑む者だけが、生き残る。経営とは、変化に対応し続ける「変化対応業」であることを戒めていきたいものです。