戦略日記
メモをとらない社長 #272
セミナーやコンサルティングを行っている現場で、私はしばしば「メモをとらない社長」を目にします。「メモをとらない社長」を見ると、ふと疑問に思うことがあります。本当に覚えていられるのだろうかと。
人は忘れる動物だと言われます。これは意志が強いとか弱いといった問題ではありません。脳の構造そのものが、忘れるようにできている。特に社長業は、日々の意思決定、相談、数字、人の問題、突発対応の連続です。すべてを頭の中に留めておこうとする方が、むしろ無理があります。
それでも「頭に入っているから大丈夫」「感覚でやれている」と言う社長は少なくありません。しかし経営の怖さは、忘れたことそのものに気づかない点にあります。過去に何を考え、何を決め、なぜその判断に至ったのか。それが曖昧なままでは、同じ場面で同じ失敗を繰り返してしまうでしょう。
ただし、ここで勘違いしてはいけないのは、メモを取ること自体が目的ではないという点です。重要なのは、何をメモするかです。
多くのメモは「教えられたこと」の記録に終わっているのではないでしょうか。セミナーで聞いた話、良い言葉、ノウハウの断片。それらは知識としては増えますが、経営自体は1ミリも変わりません。知っていることと、やっていることは、まったく別物だからです。
社長にとって本当に意味のあるメモとは、「自分は何を実践すると決めたのか」「明日、どの行動を変えるのか」「やらないと決めたことは何か」この一点に尽きます。
メモとは記憶の補助作業ではありません。意思決定と行動を再現するための装置です。記憶は曖昧になり、都合よく書き換えられます。しかし記録は、当時の事実と判断をそのまま残します。
経営は一度きりの判断で決まるものではありません。小さな判断の積み重ねが、数年後に圧倒的な差となって現れます。だからこそ、社長は考えたことを、その場限りで終わらせてはいけないのです。
メモをとらない社長は、知らず知らずのうちに「考えを仕組みに落とさない経営」を選んでいます。一方で、実践をメモする社長は、学びを武器に変えていきます。