戦略日記
社長の背中 #274
「人は城、人は石垣、人は堀。」戦国武将・武田信玄の言葉として知られるこの一節は、会社経営にもそのまま当てはまります。どれだけ立派な商品があっても、どれだけ精緻な戦略を描いても、最後に戦略を実現させる組織を支えるのは“人”です。
そして、その人を育てるのは社長の背中です。私は、率先垂範とは「我が子を育てること」に似ていると感じています。子どもは親の言葉よりも行動を見ます。たとえば「勉強しなさい」と言いながら本を読まない親の言葉は、心には届きません。社員も同じです。
時間を守っているか。
約束を守っているか。
苦しい局面で逃げていないか。
数字から目を背けていないか。
社長の姿勢は、必ず組織に伝播します。そこで思い出す格言に「上、三年にして下を知り。下、三日にして上を知る。」上に立つ者が現場を本当に理解するには三年かかる。しかし部下は三日もあれば、上司の本質を見抜くという意味です。
この非対称性は、実に重い教えです。社長はとかく「分かっているつもり」になりがちです。ですが、現場の焦燥、理不尽、迷い、そして責任の重圧。それらを本当に理解するには時間がかかります。一方で社員は、社長に覚悟があるか、本気で向き合っているか、逃げる人間か腹を括る人間かを瞬時に感じ取ります。
だからこそ率先垂範とは、号令をかけることではありません。自らが理念を体現することであり、戦略を腹に落とし、責任を引き受け続ける姿を示すことに尽きます。戦略以前に問われるのは、社長自身がぶれていないかどうかです。戦略が正しくても、トップが揺れていれば組織は揺れます。
人は城。城を強くしたいなら人を鍛えること。人を鍛えたいなら、まず自分を磨くことです。「子を見れば親がわかる」という言葉があります。子は、親の背中を見て育ちます。会社も同様で社員の姿は社長の姿の反映であり、トップの覚悟そのものだと思います。
率先垂範とは、決して完璧であることではありません。覚悟を持ち、逃げず取り組む姿(背中)を見せることに尽きます。会社の風土は、社長の生き様の写し鏡なので、自ら背中をどう見せるかを問い続けていきたいものです。