戦略日記
増やすなら減らす #290
経営者は前向きな人が多い。新しい事業を始める。新しい商品をつくる。新しいサービスを始める。頼まれれば引き受ける。面白そうだと思えば挑戦する。その姿勢自体は素晴らしいことです。
しかし、多くの中小企業が陥る落とし穴があります。それは、増やすだけで、減らさないことです。例えば、書棚が満杯なのに、新しい本を買う。本来なら古い本を処分すれば済む話です。捨てないので、新しい書棚が必要になります。さらに本が増える。また書棚が増える。経営もまったく同じです。
商品を増やす。サービスを増やす。事業を増やす。しかし何もやめない。すると会社はどんどん複雑になっていきます。事業が増えると管理が増えます。会議が増える。資料が増える。教育が増える。在庫が増える。車両が増える。システムが増える。結果として固定費がどんどん増えていきます。
しかも厄介なのは、増えている時は気付きにくいことです。売上は増えている。忙しくもなっている。だから順調だと思い込んでしまう。しかし利益は残らない。そんな会社を私は数多く見てきました。
事業が増え過ぎると、社員も何が何だかわからなくなります。何が主力なのか。何を優先すべきなのか。何を覚えればよいのか。社長は次々と新しいことを言う。昨日と今日で重点項目が違う。これでは人は育ちません。人材育成とは、たくさんのことを教えることではありません。大事なことを繰り返し徹底することです。
特に中小企業経営者は好奇心旺盛です。やりたいことは次々に出てきます。しかし、好きなことと勝てることは違います。やりたいことと儲かることも違います。経営は趣味ではありません。限られた経営資源をどこに集中するのか。そこを考えるのが戦略で社長の最大の仕事です。
名刺の裏に事業内容がびっしり書かれている会社があります。建築。リフォーム。不動産。保険。太陽光。空き家管理など。思わず、「社員さんは100人くらいいるのですか?」と聞くと、「2〜3人です。」ということも少なくありません。
失礼ながら、それは事業ではなく願望かもしれません。中小企業は何でもできる会社を目指すべきではありません。何かで一番になる会社を目指すべきです。ランチェスター戦略の本質は集中です。強い会社ほどやることが少ない。
本当に大切なのは、何をやめるか(やらないか)を決めることです。新しい商品を増やすなら、一つ減らす。新しい事業を始めるなら、一つやめる。新しい活動を始めるなら、一つやめる。この発想がなければ、会社は複雑になり、固定費は増え、利益は残らなくなります。
経営とは足し算ではありません。引き算の連続です。「やるか、やらないか」「残すか、捨てるか」結局、経営とはこの二択の繰り返しです。その決断をするのは社長しかいません。増やすことは簡単です。しかし、捨てることは難しい。だからこそ差がつきます。
中小企業が強くなる第一歩は、新しいことを始めることではなく、やめることを決めることなのかもしれません。