戦略日記

人依存から仕組み経営へ #302

人依存から仕組み経営へ #302

昔、上司から繰り返し教えられたことがあります。「トップリーダーの大切な仕事の一つは、社員が難しい仕事をしているなと思ったら、それをいかに簡単にするかを考えることだ」当時もなるほどと思って聞いていたが、経営を長く経験してきた今、この言葉の意味がよくわかるようになりました。

社員が苦労している。ミスが多い。時間がかかる。何度教えても、うまくできない。そんなとき、つい「もっとしっかりやれ」「よく考えろ」「早く覚えろ」と社員に求めてしまうのではないでしょうか。

しかし、本当に見直すべきなのは「人」ではなく、「仕事のやり方」なのかもしれません。仕事そのものが複雑になっていないか。判断することが多すぎないか。手順が人によって違っていないか。経験者にしかわからない仕事になっていないか。トップが考えるべきは、これらにあります。

難しい仕事を難しいまま社員に渡し、それをこなせる人を育てようとする。これでは、いつまでたっても育つことはおろか、人に依存する経営から抜け出せません。「あの人がいないとできない」「あの人に聞かなければわからない」「あの人だからできる」これは一見、その社員が優秀である証のように見えますが、経営という視点から見れば、会社の弱点でもあるのです。

優秀な人が休めば仕事が止まる。辞めればノウハウまで失われる。新人が入っても、仕事を覚えるまで長い時間がかかる。その結果、社長やベテラン社員がいつまでも現場から離れられない。だからトップは、仕事を「人」から「仕組み」へ移していかなければなりません。

誰がやっても一定の成果になるようにする。つまり、難しい仕事を、普通の人でもできる仕事へ変えていく仕組みづくりです。ここで大切なのは、仕組みづくりとは単なるマニュアルづくりではないということです。「どうすれば、この仕事そのものを簡単にできるか」ここまで考えるのがトップの仕事だと思います。

人を仕事に合わせるのではなく、仕事のほうを、人が成果を出しやすい形に変えていく。社員の能力だけに頼って成果を上げる会社には限界があります。しかし、仕組みによって社員の力を引き出す会社は強いのです。

そして、これは当然、生産性にも直結します。同じ成果を、より少ない時間で。同じ品質を、より少ない負担で。経験の浅い人でも、一定水準まで早く到達できるようにする。生産性向上というと、社員教育やIT導入に目が向きがちだが、その前にトップがやるべきことがあります。

仕事の目的を明確にし、やらなくてよいことを減らし、やるべきことを絞り込み、誰でも成果を出しやすい仕事へ変えていく。戦略に基づいて、仕事の仕組みそのものを設計することです。

そして、もう一つ大切なことがあります。人がミスをしたら、まず仕組みがおかしくないかを疑う。人を直す前に、仕組みを見直すことです。「なぜ間違えたんだ」と人を責めて終われば、また同じミスが起きます。しかし、「なぜこのミスが起きたのか」「どうすれば誰がやっても間違えないようにできるか」と考えれば、一つのミスが会社の仕組みを強くする材料になります。

昔、上司から繰り返し教えられた言葉。「社員が難しい仕事をしていると思ったら、いかに簡単にするかを考えろ」今になって、この言葉の重みがよくわかります。これは単なる仕事改善の話ではありませんでした。人に依存する経営から脱却し、仕組みで成果を出す経営へ変えていく。これこそが、トップリーダーの大切な仕事の一つなのです。

一望千里株式会社 新井雅樹