戦略日記

忙しいが口癖の経営者は変わらない #307

忙しいが口癖の経営者は変わらない #307

「忙しくて、なかなか時間が取れない」経営者からよく聞く言葉です。忙しくて勉強する時間がない。忙しくて社員と話す時間がない。忙しくて経営計画を考える時間がない。忙しくて新しいことに取り組めない。

「忙しい、忙しい」と言っているようでは、経営は永遠に変わらない。少々厳しい言い方かもしれませんが、これは私自身の経営経験からも実感していることです。そもそも、忙しさは自然に解消されるものではありません。今の仕事のやり方を続けている限り、明日も忙しい。来月も忙しい。一年後も忙しい。忙しさから抜け出せないのは、時間が足りないからではなく、経営のやり方を変えていないからです。

売上が増えれば、さらに忙しくなる。人を増やせば、今度は人の管理に追われる。問題が起これば、社長自らが解決に走り回る。そして、いつしか忙しく働くことが当たり前になってしまう。経営者が忙しいこと自体は、決して悪いことではありません。問題は、何に忙しいのかということです。

本人は一生懸命に働いています。誰よりも早く出社し、誰よりも遅くまで仕事をしているかもしれません。しかし、一生懸命に働いていることと、経営者として正しい仕事をしていることは、必ずしも同じではありません。

むしろ、忙しさに追われている経営者ほど、経営の本質的な仕事から遠ざかっていることがあります。経営者の最も重要な仕事は、会社の未来をつくることです。どの市場で戦うのか。誰をお客にするのか。何を自社の強みにするのか。限られた経営資源をどこに集中させるのか。

これらを考え、決断することが経営者の仕事です。ところが、こうした仕事には目先の緊急性がありません。今日、戦略を考えなくても会社は動きます。今日、経営の勉強をしなくても売上は立ちます。今日、仕事の仕組みを見直さなくても、何とか一日を終えることができます。

だから、つい後回しにしてしまう。しかし、その積み重ねが半年後、一年後の業績を決めているのです。ランチェスター戦略では、経営者の仕事を戦略と戦術に分けて考えます。戦略とは、経営の全体的な勝ち方を決めること。戦術とは、その方針に従って日々の仕事を実行することです。

経営者が戦術に追われている限り、戦略を考える時間は生まれません。そして、戦略が変わらなければ、日々の仕事のやり方も変わらないのです。

恐ろしいのは、忙しさが経営者に一種の充実感を与えてしまうことです。「今日もよく働いた」その満足感が、経営の問題を見えなくしてしまう。私自身も、長い経営経験の中で、忙しく働くことを仕事の成果と勘違いしていた時期がありました。目の前の問題を解決することに追われ、肝心の問題が起きない経営の仕組みづくりを後回しにしていたのです。

今になって思えば、忙しかったのではなく、忙しくなる経営を自らつくっていたのかもしれません。忙しいから変えられないのではない。変えようとしないから、いつまでも忙しいのです。

経営者に必要なのは、仕事を増やす努力ではなく、仕事のやり方そのものを変える決断です。何をやめるのか。何を減らすのか。何に集中するのか。そして、何を自分以外に任せるのか。これこそが戦略的な意思決定です。

経営者が本当に考えるべきことは、どうすればもっと多くの仕事をこなせるかではなく、どうすれば、少ない仕事量で、より多くの粗利益を生み出せるか。そのための仕組みをつくることです。

「時間ができたら考えよう」「余裕ができたら勉強しよう」と言っている限り、その日はいつまでたっても訪れません。「忙しい」という言葉を、変わらないための言い訳にしていないでしょうか。経営者が変わらなければ、会社は変わりません。忙しさから抜け出すために必要なのは、時間ではなく、経営者自身が変わる決断なのです。