戦略日記
AIは経営戦略の代わりにならない #309
中小企業でもAIの導入が進み始めています。文章作成、資料作成、議事録、顧客対応など、その活用範囲は広がる一方です。確かに便利ですし、私自身も日々、その進化には驚かされています。
しかし、経営者として考えなければならないことがあります。「AIを導入することで、本当に会社の売上や利益は増えるのか」ということです。
AIを使って仕事が早くなった。社員の負担が減った。作業時間が短縮された。もちろん、これらも大切な成果です。しかし、業務が効率化されたことと、会社の業績が良くなることは、必ずしも同じではありません。経営の目的は、AIを導入することでも、仕事を楽にすることでもありません。お客に選ばれ、必要な粗利益を継続して生み出せる会社をつくることです。
2026年版中小企業白書によると、成長に向けたAI活用に取り組んだ企業の付加価値額増加率は、中央値で23.0%。一方、取り組んでいない企業は17.9%でした。5.1ポイントの差があります。ただし、AIの導入だけで、この差が生まれたと断定できるわけではありません。また、中小企業基盤整備機構の調査では、AIの導入率は20.4%。導入予定や検討中を含めても39.0%です。AI活用による業務効率化には高い効果が確認されていますが、まだ多くの企業が活用を模索している段階にあるようです。
私は、この数字を見て、改めて経営戦略の重要性を感じました。AIは確かに優れた道具です。しかし、優れた道具を持つことと、優れた経営ができることは別問題です。
例えば、営業資料を短時間で作れるようになっても、そもそも狙うお客が間違っていれば、売上は増えません。広告を大量に作れるようになっても、商品の差別化ができていなければ、価格競争から抜け出せません。
つまり、間違った戦略のままAIを活用すれば、間違った方向へ進む速度を上げることにもなりかねないのです。ランチェスター戦略では、限られた経営資源をどこに集中させるかを重視します。どの地域で、どのお客に、どの商品を提供するのか。この基本的な戦略が定まってこそ、AIの力を効果的に活かすことができます。
戦略が先で、AIの活用は後なのです。もう一つ大切なのは、部分最適と全体最適の違いです。資料作成の時間が半分になったとしても、それだけで会社の利益が増えるわけではありません。生まれた時間を何に使うのか。営業活動に振り向けるのか。商品価値を高めるのか。既存のお客との関係を深めるのか。そこまで考えて初めて、AIによる効率化が経営成果につながります。
特に人手不足に悩む中小企業にとって、AIは大きな可能性を秘めています。社員を増やさずに仕事の質と量を高め、1人当たり粗利益を増やすことができれば、賃金の引き上げや職場環境の改善にもつながります。しかし、その実現には、経営者自身がAIを何のために使うのかを明確にしなければなりません。
AIは経営者の能力を補完してくれます。しかし、経営者に代わって経営の目的や戦略を決めてくれるわけではありません。これからは、AIを使う会社と使わない会社の差だけでなく、AIを戦略的に活用できる会社と、単に便利な道具として使う会社との差が広がっていくのではないでしょうか。
大切なのは、AIを使って、自社の何を強くするのか。その問いに答えることこそ、経営者の仕事だと思います。