戦略日記

成功事例に群がる経営者 #65

成功事例に群がる経営者 #65

昔から今でもある「○○で売上を3倍にする経営セミナー」「売上倍増○○研修」の類い。または、「このようにして我が社は成功した。」というような所謂、成功する(した)もの。

このような成功事例セミナーや研修に経営者はよく参加する。(過去の私がそうだった…)

果たして、このような事例を模倣して自社の経営に本当に役立てられるだろうか。更に言えば、自社における再現性があるのだろうか。

再現性とは、「同一の結果が、同一の手法によって得られるとき、それら結果の一致の度合いの高さ」を指す。誰かが実験を行って得られた結果を、別の人が全く同じ実験を行って得た結果と比較したとき、2つの結果が似通っていれば「再現性が高い」と言える。

成功事例から自社に置き換えられる再現性は極めて低いといえる。

勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし。

プロ野球、故野村克也監督が本にされた有名な言葉である。

この言葉はもともと、江戸時代の大名で剣術の達人でもあった松浦静山の剣術書から引用されたもの。「負けるときには、何の理由もなく負けるわけではなく、その試合中に必ず何か負ける要素がある。一方、勝ったときでも、すべてが良いと思って慢心すべきではない。勝った場合でも何か負けにつながったかもしれない要素がある」という意味。

試合に勝つためには、負ける要素が何だったかを抽出し、どうしたらその要素を消せるかを考えていく必要がある。また、もし勝ち試合であっても、その中には負けにつながることを犯している可能性があり、その場合は、たとえ試合に勝ったからといって、その犯したことを看過してはならない、という戒めを述べている。これは経営でも全く同じといえる。

世の中には、成功のハウツーものは多いのだが、実際にはむしろ失敗から多くのことが学べる。経営において「これをやったら負ける。」「こういうことをしてはいけない。」というご法度やタブーが必ず存在し、禁断の果実の如く、手を出した者は早かれ遅かれ必ず負ける。

失敗事例こそ再現性が高いといえる。

中小企業経営者は、あれもこれも手を出したがる。(思っている)こうすることで会社が成長すると信じているからだ。他には、規模が大きくなり外見的によく見られる、傍目からカッコよく見られたいという深層心理が働いている。

カテゴリにおいて市場占有率(シェア)が高い大企業であれば、広く、大きく、たくさんの強者戦略で展開できるが、経営資源が乏しい中小企業が同じようなことを行うと「お客掘り起こし係」となるのは必然で苦戦する。ましてや縮小した市場となった今、大企業さえも苦心している。

戦略は引き算だ。

とかく足し算で考えてしまいがちだが、「これはやらない。」「あれもやらない。」と削ぎ落としていき、経営のヒト、モノ、カネを一点に集中させていくことが弱者戦略構築の定石となる。

すなわち負けない戦略が必要なのだ。

成功事例のほとんどはノウハウで戦術にあたる。戦術は目に見えてわかりやすいので、ついついこれだけに注力してしまう。群がる経営者は、そもそも同質化している。これでカテゴリNo.1になれるほど経営は甘くない。