戦略日記
言葉遊びのスローガンで終わらせない #246

中小企業の経営者仲間と接していると、想いにあふれた方がとても多く感じます。社員を大切にし、地域に貢献し、社会的な意義ある事業を目指す、その姿勢には頭が下がります。
しかし、そんな熱心な経営者ほど、「それってスローガンでは?」と思ってしまうような言葉を「ビジョン」として掲げていることが少なくありません。「日本を元気にしたい」「地域の子どもたちに夢を」「世界中に笑顔を届けたい」等など。
もちろん、こうした言葉は否定するものではありません。企業の想いを伝えるキャッチコピーとしては非常に素晴らしいものです。しかし、それが「ビジョン」だと言われると、私は少し違和感を抱きます。なぜなら、本来、ビジョンとは、「いつまでに」「何を」「どのような状態にするのか」という、戦略的なゴールのことだからです。
たとえば、「2030年までに○○エリアで〇〇分野においてNo.1企業になる」「5年以内に特定市場でシェア20%を獲得する」といったように、理念を土台にしつつ、外部環境の分析や自社の強み、競合の状況を踏まえて「こうあるべき」という未来像を描くのが、本来のあるべき戦略的ビジョンです。
つまり、ビジョンとは「戦略的に到達すべき具体的な将来像」であり、ただの願望やキャッチフレーズではありません。
熱心な経営者ほど、想いが強くなるあまり、感情ベースで「それらしい耳障りの良い言葉」を並べてしまいがちです。しかし、それが戦略とつながっていなければ、社員はどう動けばよいのかわかりません。どこへ向かうのか、どうやってそこに到達するのか。その道筋が示されていなければ、結局は経営者の独り言にすぎないのです。
このように、表現の美しさばかりが先行してしまうと、「ビジョン」が言葉遊びに堕してしまいます。美辞麗句を並べて満足してしまい、実行も検証もされないまま放置される。そんな“絵に描いた餅”のようなビジョンが、社内に貼られている光景は決して珍しくありません。
夢や情熱は確かに大切です。でも、それだけで会社は動きません。ビジョンには、戦略と根拠が必要です。そしてそれを構築するには、理念、目的、ビジョン、戦略、戦術という順を追った整合性ある構成が必要不可欠です。「理念で始まり、戦略で導き、戦術で動く」この経営の本質を忘れてはいけません。