戦略日記
間違ったことを全力で行っている #245

経営者の中には、非常に真面目で努力家の方が多くいます。経営書を読み、理念やビジョンの重要性を学び、セミナーに参加して人材育成や組織づくりに力を注ぐ。社員との関係にも気を配り、日々精力的に動き回っています。
一見、理想的な経営者の姿に見え、周りからも称賛されることが多いでしょう。しかし、その努力が思ったように成果につながらない。むしろ、努力すればするほど、経営が苦しくなっていく。そんな事例が後を絶ちません。
なぜなら、「間違ったことを全力でやっているから」です。もっと言えば、「戦略がないままに、全力で努力してしまっている」のです。
経営とは、「どの山を登るか」を決めるところから始まります。ところが、多くの経営者は「とにかく、がんばれば何とかなる」という精神論で突き進みます。登る山も、ルートも、競合状況も見ずに、ただ全力で登り続けているのが実態です。しかし、気づいたときには、自分が目指すべき山ではなく、勝てない戦場にいた。そんな悲劇が現実には数多くあるのです。
この問題の本質は、「努力」ではなく、「方向性の誤り」です。どれだけ正しい努力をしているつもりでも、土台となる戦略が間違っていれば、すべてが無駄になります。
さらに厄介なのは、「一生懸命やっている」という事実が、経営者自身の盲点になることです。「こんなにがんばっているのに成果が出ないのは、まだ努力が足りないのだ」と、さらにアクセルを踏み込んでしまう。結果、間違った方向に、より速く、より深く突き進んでしまうのです。
これは、努力が悪いのではありません。「戦略なき努力」が、最大のリスクであり、最大の遠回りなのです。
経営の勉強も同じです。「理念を学ぶ」「人を育てる」ことは大切ですが、それらを支える戦略がなければ空回りします。学ぶ順番を間違えたまま、自己満足の“勉強”をいくら重ねても、経営の現場では結果に結びつきません。
「間違ったことを、全力でやってはいけない。」だからこそ、まず学ぶべきは「戦略」なのです。戦う市場を選び、勝てるポジションを見極め、選択し資源の集中を図る。これがあって初めて、理念も人材も数字も、経営において正しく機能するのです。