戦略日記
夢を実現させるためには #247

日本では、お金や利益の話をすることが、どこかタブーのように扱われる傾向があります。特に中小企業経営者の間では、「夢や志こそが大事だ」と声高に語られることが多いものです。もちろん、夢や志は経営の原動力になります。しかし、その裏側で、「数字は苦手です」とか「経理は担当者と税理士に任せているのでわからない」など数字に向き合うことを避ける経営者が少なくありません。
現実には、パレートの法則が示すように、中小企業の約8割が赤字経営だと言われています。これも、数字や利益構造への理解不足からくる必然的な結果といえるでしょう。数字を軽視すれば、その結末は目に見えています。
私たちは小さい頃から、家庭や学校で「夢を持つことは素晴らしい」と教えられてきました。確かにその通りです。しかし経営者であるならば、忘れてはいけない現実があります。どんなに立派な夢も、お金が尽きた時に破れるという事実です。
例えば、どれほど美味しい料理を出す店であっても同じことで、食材の仕入れ資金だけでなく、毎月の家賃、厨房機器などのリース料、光熱費、スタッフの給与といった固定費を支払えなければ持続不可能となるのは当たり前のことです。夢はお金、特に利益という燃料によって走る車のようなもので、燃料が尽きれば、どれほど立派な目的地があっても辿り着くことはできません。
実を言えば、私自身もかつてそうでした。経営理念に「夢の実現」を掲げ、熱意や情熱の量さえ増やせば、必ずその夢は実現できると信じて疑わなかったのです。社員に対しても「もっと気持ちを高めよう」「情熱で乗り越えよう」と鼓舞し続けていました。確かに当時は会社の空気も前向きでしたが、情熱だけでは経営課題は解決できず、資金が尽きれば夢も終わるという現実を体験しました。
渋沢栄一は『論語と算盤』の中で、「道徳(論語)と経済(算盤)は二つにして一つ」と説きました。志や理念(論語)だけでは経営は成り立たず、利益(算盤)を伴ってこそ社会的使命を果たせるという考えです。
だからこそ、経営者は「夢を描く力」と同じくらい、「数字を読む力」を磨く必要があります。お金を避けて語るのではなく、数字に基づき戦略を立て、利益を確保し続けること。これこそが、夢を実現させるための唯一の道です。