戦略日記

経営年数とともに膨らむ固定費 #273

経営年数とともに膨らむ固定費 #273

会社の経過年数が長くなるにつれて、固定費は自然と上がっていきます。人件費は元より、通信費、外注費、会費、サブスク、車両費など。一つひとつは小さくとも、確実に積み重なっていくのが固定費です。

これは、人間の体に垢がたまっていくのとよく似ています。一気に汚れれば自覚できますが、毎日少しずつなら違和感がないかも知れません。経費も同じで、「まあ、このくらいなら」と見過ごされたものほど、後になって経営を重くします。

売上が伸び始めると、ここに経営者の慢心が重なります。「今は回っている」「利益も出ている」「多少の経費は問題ない」この瞬間から、固定費に対する感度は確実に鈍ります。

しかしランチェスター戦略、そしてMQ会計の視点で見ると、この判断は極めて危険です。なぜなら成果は M(粗利益)× Q(数量)− F(固定費) で決まるからです。MとQは、戦略と戦術によってある程度コントロールできます。一方で固定費Fは、一度膨らむと簡単には下がりません。売上が落ちても、Qが減っても、Fだけは何事もなかったかのように残り続けます。

売上が好調な時は、これらが同時に機能しています。①市場での存在感があり、②接点が切れず、③顧客は安心して選び、④経営者自身も日常の行動量を落とさない。しかし環境が変わり、売上が落ち始めると、四つの要素が同時に崩れ始めます。これらが同時に崩れた瞬間、Qは崖のように落ちる指標であるからです。

しかし固定費Fは減らない。ここで初めて、多くの会社は構造の弱さに直面します。売上が落ちたから苦しいのではありません。MとQが落ちた時に耐えられない設計だったから、苦しくなるのです。

固定費Fを下げることは、経営の中で最も難易度が高い仕事です。なぜなら従業員の生活や慣習、関係性と結びついているからです。だから多くの会社は、限界まで見直しを先送りします。だからこそ本当に重要なのは、「下げる努力」ではなく、「上げない覚悟」です。

この経費は、本当に必要か。投資として、リターンを生み出しているのか。感情でも慣習でもなく、M×Qに寄与しているのかを常にチェックしなければいけません。

固定費を点検することは、経営者自身の慢心を点検することでもあります。今日も数字を見て、構造を疑う。それが、経営を生き残らせる唯一の現実的な方法だと思います。