戦略日記
石橋を叩いて渡る #275
昔からよく「石橋を叩いて渡る」と言われます。これは、ひと言で言えば慎重であれという教えです。経営の世界でもよく引用される言葉で準備不足や思いつきの判断は、取り返しのつかない結果を招くことがあります。だからこそ、慎重さは経営者の重要な資質です。
これは、単に怖がることではありません。市場を調べ、数字で裏付け、リスクを洗い出し、最悪の事態を想定すること。つまり“感覚”ではなく“検証”です。経験や勢いに頼るのではなく、構造で考える姿勢です。
孫子の兵法に「勝ち易きに勝つ」という言葉があります。勝てる条件を整えてから戦う、という意味です。また「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」とも説いています。敵と自分の状況を正確に把握すれば、大きな危険は避けられる。これこそが、石橋を叩く行為そのものです。
しかし現実には、もう一つの落とし穴があります。多くの人は、叩くことに力を注ぎます。情報を集め、比較し、分析し、さらに慎重になります。やがて不安が増え、完璧を求め、決断が遅れる。安全性は確認できているはずなのに、「もう少し様子を見よう」と渡らない場合も少なくありません。
しかし、市場は待ってくれません。競合も動きます。叩き続けている間に、渡るべき機会そのものが消えていく。市場におけるシェアの奪い合いをしているからです。競合に先にシェアを奪われてしまってはいけません。
孫子は同時に、「兵は拙速を聞くも、未だ巧久を見ざるなり」とも言っています。戦いにおいては、巧妙でも遅いより、多少拙くとも速い方がよい。長期化は不利を招くという教えです。調査、分析を万全にして、叩いて安全だと判断したら、一気に速く渡ることが肝要です。叩くのは慎重に、渡るのは大胆に。この考え方こそが、経営者の力量と言えます。
慎重さとスピード。分析と実行。どちらか一方では足りません。叩くだけの人は評論家になります。渡るだけの人は無謀になります。両極を持ち合わせてこそ、前に進める。怖いのは橋ではありません。社長の決断となります。
叩き続けるのは準備。速く渡るのは決断とスピードとなり「石橋を叩き続けて、速く渡れ」に尽きると感じます。