戦略日記
名人ではなく仕組みで戦う #282
中小企業に限らず、どんなビジネスでも「一人の名人」に頼る業務のあり方は極めて危険です。「あの人しかできない」「あの人がいないと回らない」こうした状態は、一見すると優秀な人材がいる証のように見えます。しかし、経営の視点で見れば、それは重大なリスクを内包しています。
なぜなら、その仕事が個人の勘や経験、長年の慣れの中に閉じ込められているからです。本人にとっては当たり前でも、周囲には再現できない。結果として、人は育たず、引き継ぎもできず、組織としての力が蓄積されません。
さらに、その名人が休めない、辞められないという状況を生み出し、会社全体の持続性を損ないます。これは「強み」ではなく、「依存」という弱点です。
経営が目指すべきは、属人化の排除です。特にカギとなる業務ほど、徹底的に記録し、見える化し、分析しなければなりません。手順、判断基準、成功のポイント、失敗事例。こうした暗黙知を一つひとつ言語化し、誰でも理解できる形に落とし込むことです。そして、それを繰り返し改善し続ける。この積み重ねこそが、会社の力を底上げしていきます。
目指すべき水準は明確です。「今日入ったアルバイトでもできるようにする」ことです。
もちろん、いきなり完璧にできるわけではありません。しかし、この水準を目標に業務を設計することで、仕事は初めて“会社の資産”になります。逆に、ベテランの頭の中にしか存在しない仕事は、いつまで経っても資産化されません。それどころか、時間とともに失われていくことになります。
ここで重要なのは、名人を否定することではありません。名人の存在は価値です。しかし、その価値を個人の中に閉じ込めていては意味がありません。名人の技を分解し、構造化し、再現可能な形にする。これこそが経営の仕事です。
優秀な人がいる会社が強いのではありません。優秀な人のやっていることを、誰でも再現できる仕組みに変えられる会社が強いのです。その仕組みこそが、シェアを高め、安定的に一位を取り続ける力になります。