戦略日記

会社が伸びる時の経営者の盲点 #301

会社が伸びる時の経営者の盲点 #301

会社の売上が伸び始めると、経営者はうれしいものです。お客が増える。紹介が増える。新しい仕事が入ってくる。経営者の勉強会や交流会にも積極的に参加し、人脈もどんどん広がっていく。「会社が良い方向へ向かっている」そう感じるのは当然だと思います。

しかし私は、こういう時こそ経営者は気をつけなければならないと思います。会社が上向いている時ほど、経営者は盲目になりやすい。売上が伸びると、経営者の目は自然と「外」へ向かいます。外へ出れば刺激があり、成果も見えやすい。「自分は前へ進んでいる」という充実感もあります。

ところが、その間にも会社の「内側」では、小さな異変が起き始めていきます。連絡漏れ。確認不足。発注間違い。請求漏れ。納期の遅れ。お客への返事の遅れ。社員同士の認識違い。一つひとつは致命的な問題ではありません。だから、「忙しいから仕方がない」「今回はたまたまだ」と見過ごしてしまう。

ここで思い出したいのが、ハインリッヒの法則です。労働災害の経験則として知られる考え方で、1件の重大事故の背景には29件の軽微な事故があり、さらにその背後には300件の異常やヒヤリとする出来事がある、というものです。いわゆる「1:29:300」の法則です。

これを経営に置き換えてみると、ある日突然、大切なお客を失った。重大なクレームが発生した。大きな金額の請求漏れが起きた。優秀な社員が突然辞めた。果たして、本当に「突然」だったのだろうか。

その前に、29の小さなミスがあり、さらにその前には300の「何かおかしい」があったのではないか。経営者が見なければならないのは、重大な「1」が起きてからではありません。まだ損失になっていない「300」の段階です。ところが会社が伸びている時ほど、この300が見えなくなる。売上が伸び、仕事が増え、人脈も広がっている。その明るい数字と充実感が、足元で起きている小さな異変を覆い隠してしまいがちです。

小さなミスが増えているということは、単に社員が注意不足なのではない。仕事量に仕組みが追いついていないのかもしれない。役割分担が曖昧なのかもしれない。情報共有の方法に無理があるのかもしれない。あるいは、経営者自身が現場から離れ過ぎているのかもしれない。

新規顧客を増やすことだけが経営ではありません。増えた仕事を確実に処理し、お客との約束を守り、社員が無理なく働き、品質を維持できる体制をつくる。そこまでできて初めて、本当の成長と言えるのではないでしょうか。

自分自身が現場を見なくなっていないか。重大な「1」は、ある日突然やってくるのではありません。その前に「29」があり、その前には「300」がある。会社が伸びている時こそ、その小さな300を見る。大きな問題を解決する経営者より、小さな異変を見逃さない経営者でありたいものです。