戦略日記
成功事例は真似できない #244

「成功した経営者の話を聞いて、自社にも取り入れてみたが、うまくいかなかった」そんな経験をしたことはないでしょうか。
成功者の体験談は華やかで魅力的です。セミナーや書籍でも「こうすれば成功する」というノウハウが並んでいます。だが、現実にはその通りにやってもうまくいかないことがほとんどだと思います。なぜなら、その成功には再現性がないからです。
成功というのは、時代、地域、市場環境、競合状況、経営資源など、無数の変数の結果であることが多い。つまり、その人にとっての“最適解”が、他人にとっても最適とは限らないのです。
さらにやっかいなのは、当の成功者自身が、なぜ成功したのかを正確に言語化や仕組み化できていない場合が多いことです。結果的に、本人の感覚や経験に基づく話になりやすく、聞き手は「なるほど」と感心しても、それをどう自社に落とし込めばよいか分かりません。いわば“賞味期限の切れた成功事例”を追いかけているようなものと言えます。
一方で、失敗には因果があります。
うまくいかなかったことには必ず理由があり、その原因を突き止めれば、再発を防ぐだけでなく、次の戦略に活かすことができます。たとえば、「価格を下げたら客数は増えたが、利益が残らなかった」という失敗があれば、次は「価値をどう伝えれば価格を下げずに済むか」という問いが生まれます。このように、失敗は具体的な改善点を教えてくれる「生きた教材」となります。
また、失敗は自分自身の思考や判断を内省するきっかけにもなります。他人の成功よりも、自分の失敗の方が、よほど強く心に刻まれるはずです。そしてそこから得た学びこそが、次の打ち手を“自分ごと”として構築する基盤になります。
経営とは、再現性のある成果を生み出す営みである。だからこそ、偶然の産物である成功よりも、必然の積み重ねとしての「失敗の分析」こそが価値ある戦略資源となるのです。
成功例を真似することに意味がないとは言いませんが、それが「うまくいかなかった時」にどう修正するか、そのとき初めて経営の実力が試されます。