戦略日記
シェアなきはランチェスター戦略にあらず #254

「うちは理念を大事にしています」「商品力で勝負しています」そう語る経営者は多い。しかし、その言葉に「市場占有率=シェア」という視点がなければ、それは戦略ではなく、ただの理想論か精神論にすぎません。
大企業の決算資料を見れば、その事実は明らかです。「国内シェアNo.1」「○○市場での20%のシェアを維持」など、どの企業も、戦略を語る時には必ず市場占有率の“数値”をもとに説明しています。戦略とは定性的な願望ではなく、定量的な優位性として示されるべきものなのです。
経営者の中には、理念を大事にし、商品力に自信を持ち、顧客満足度を高める努力をしている人が多いと思います。もちろん、それらは大切なことです。しかし、どれだけ素晴らしい理念や思いがあっても、それが具体的な市場の中で評価され、選ばれ、結果として「一定のシェアを獲得している」状態でなければ、経営としての実効性はありません。シェアなき理想は、単なる自己満足に終わるリスクを孕んでいます。
もっとも重要なのは分母の定義となります。自社の市場シェアを算出するには、まず市場規模(分母)を明確にする必要があります。地域・業種・価格帯・年商・購買頻度など、具体的な条件で切り出された分母の上に、自社の取引実績(分子)を当てはめて初めて、シェアが見えてきます。シェアが見えれば、戦うべき場所も、伸ばすべき領域も、守るべき顧客も見えてくるのです。
「うちは市場のデータが無くて… シェアなんて出せませんよ」そう言って立ち止まる経営者は少なくありません。しかし、それは本当に「分からない」のだろうか。本気で1位を狙う覚悟があれば、「分からないから調べる」「精度は荒くても仮説を立てて算出してみる」その姿勢が必要なはずです。
戦略とは、勝つための仕組みであり、勝ちとは=シェアを握ることです。自社が「どこで」「誰に対して」「何を売り」「どのくらいのシェアを握っているか」を仮説でもいいから掴む努力をしなければ、戦略は絵に描いた餅で終わってしまいます。シェアによって戦い方が決まってくるからです。
仮説であっても、数値で語れば社員にも伝わりやすくなります。「あと3社取れば20%を超える。トップシェアが見えてくる」こうした共有可能な目標は、チームの戦う理由を明確にし、戦略を現場に落とし込むことができるのです。
「シェアなきは、ランチェスター戦略にあらず」この言葉は、経営者に対する厳しくも本質的な問いかけです。理念と戦略、情熱と数値、この両輪を回すことこそが、戦略経営の第一歩です。