戦略日記

言行一致を徹底する #253

言行一致を徹底する #253

中小企業の経営者を見ていて驚かされるのは、実に多くの人が「小さなこと」をおろそかにしていることです。会議への遅刻や取引先への支払い期日を守らない、メールの返信を怠るなど経営の信頼性を損ねています。

信頼は「小さな約束を守ること」からしか生まれません。それにもかかわらず、「経営者のあり方が大事」「理念が重要」といった言葉を繰り返す場面が目立ちます。

理念や戦略を掲げる前に、人としての約束や社会的なルールを守ることが大前提であり、それが欠けていては理念も戦略も空回りします。どれほど立派な理念を掲げても社員や取引先の心には響きません。

加えて、「お金を使わずに利益を出したい」と考える経営者も少なくありません。しかし経営は資源の投入と活用によって成果を生み出す営みです。人材への教育投資、設備や販路の整備、情報収集や分析といった活動を省いて、利益のみを追求することは到底無理な話です。投資と成果は表裏一体であり、投資を避ければ持続的な成長は望めないのです。

さらに、社員の待遇改善を後回しにしながら、理念や社訓の唱和を重視するケースも見られます。これは組織文化の形式化を進める一方で、実質的なモチベーション向上にはつながらない取り組みです。昭和的な経営習慣を繰り返すだけでは、現代の労働環境に適応できず、人材の雇用や定着、成長を阻害するリスクがあります。

ランチェスター戦略が説く「戦い方」も、こうした基盤が整っていて初めて意味を持ちます。小さな約束を守り、必要な投資を行い、社員と方向性を共有する。そうした日常の積み重ねを欠いたまま戦略を導入しても成果は定着しません。戦略は魔法の杖ではなく、経営者の行動と組織の基礎の上に築かれるものだからです。

経営の出発点は経営者自らが「足元を正すこと」にあります。時間、約束、支払いといった当たり前の行動規範を徹底することこそが、理念を実際の経営に落とし込む第一歩です。

戦略の有効性も、この基盤があってこそ発揮されます。経営においては、まさに小事が万事と言えるでしょう。とかく社長の地位になれば、周りから諌められることが少なくなっていきます。だからこそ言行一致となっているか、常に自らを律し、問いただす姿勢が必要です。