戦略日記

真の経営努力とは何か #257

真の経営努力とは何か #257

「もっと努力しなければ」「経営努力で乗り切る」こうした言葉を口にする経営者はとても多いと思います。だが、その“努力”の中身を問うと、「コスト削減」や「価格を下げて販売促進をする」といった、戦術レベルの話に留まっています。これは、経営努力ではなく“作業努力”に過ぎません。

経営努力とは本来、利益構造を変えるための知恵を使った戦略的行動です。単に汗をかくことや、現場を走り回ることではなく、会社の方向性そのものを定め、利益を生む仕組みを設計すること。これが本当の意味での努力です。

たとえば、値下げによって売上を維持しようとすると販売数量を増やさなくてはいけません。

MQ会計で分析すると、10%値下げすれば、売上を維持するには数量を20%以上増やさなければなりません。しかし数量が増えれば固定費も上がり、最終利益は確実に減ります。つまり「売上は増えたが、利益は減った」という逆転現象が起こり、値下げを続けていけば赤字になり企業の体力はなくなっていきます。これを理解せずに値下げを繰り返すことは、努力ではなく自滅の始まりとなります。

ところが、テレビのインタビューで飲食店オーナーが「物価高騰で厳しいけど、お客様のために価格を据え置いて頑張っています」と語る場面をよく見かけます。一見、立派な姿勢に見えるが、これは経営努力とは言えません。利益を削って価格を維持するのは戦略ではなく“我慢”であり、そこに経営の知恵はないということです。

では、真の経営努力とは何か。それは、単価を下げずに、顧客が“高くても買いたい理由”をつくり、その価値を提供し続けることに尽きます。顧客が感じる価値をどう設計し、どの市場で、どの客層に集中するか。さらに、その価値を体験としてどう伝え、満足を積み重ねるか。これらを考え抜くことが「戦略を構築する努力」であり、最も知的で、最も経営的な努力なのです。

ランチェスター戦略は「弱者は値下げで戦ってはならない」と説いています。強者は資本力で価格競争に耐えられるが、中小企業が同じ土俵に立てば体力を失うのは必定です。弱者が生き残る道はただ一つ「価格」ではなく「価値」で勝負することです。

戦術の努力は消耗戦の繰り返しで疲弊を招き、戦略の努力は会社を強くします。真の経営努力とは、汗ではなく知恵で成果を生むこと。値下げに逃げず、価値を創り出し、提供し続けることこそ、経営者がなすべき“戦略的経営努力”です。