戦略日記
準備で経営の優劣が決まる #259
若かりし頃、上司から口酸っぱく「段取り八分、実行二分。計画は綿密周到にせよ。」と言われました。当時は、勢いと情熱だけで走り回っていた私にとって、その言葉の意味は正直ピンと来ていませんでした。だが、歳月を重ね、数多くの経営支援の場を経験する中で、今ほどこの言葉の重みを実感することはありません。
仕事の質も、経営の成果も、突き詰めれば“段取り次第”です。私自身を見つめ直してみると、セミナーや勉強会の準備に多くの時間を費やしています。本番で話している内容は、その何十分の一にすぎません。構成、事例、言葉の選び方、参加者の反応を想定した順序づけなど、この「事前の設計」が整えば整うほど、当日は自然と伝わると感じています。
ランチェスター戦略の基本は「戦う前に勝つ準備をする」ことにあり、どの地域で、誰に、何をという戦略を決めて、競合他社にどんな方法で勝つのか。三大戦略(地域・客層・商品)が曖昧なまま、チラシを打ち、SNSを動かしても、弾は的を外します。的を定める前に撃つのだから、当たらないのは当然と言えます。
「段取り八分、実行二分」とは、単なる仕事の心得ではなく、それは、戦略の精度を高めるための鉄則となります。周到な段取りとは、目的を明確にし、優先順位を決め、資源を集中させることに尽きます。
多くの経営者が「忙しい」「時間が足りない」と嘆く声をよく耳にします。しかし、多くの場合、段取り不足の結果ではないでしょうか。本来、時間とは作るものではなく、設計するものです。
野球やサッカーなどのプロアスリートが、試合後のインタビューでよくこう言っています。「次までにしっかり準備して戦います。」彼らは、勝負を左右するのが“本番”ではなく“準備”だと知っています。結果を出す人ほど、試合以外の準備時間を大切にしているのです。
経営もまったく同じであり、準備不足では、勝てるものでも勝てません。準備不足は、チャンスを逃す最大の敵です。せっかく目の前にチャンスが来ても、準備をしていなければ掴めません。チャンスは突然に見えて、実は“準備した人”にしか見えないのかも知れません。未来を迎えるための姿勢そのものと言えるでしょう。