戦略日記

お金をかけずに儲けたい社長の経営麻痺 #260

お金をかけずに儲けたい社長の経営麻痺 #260

経営とは、投資とリターンの関係をいかに設計するかの勝負です。にもかかわらず、「お金は使いたくない」「でも儲けたい」と考える中小企業経営者が驚くほど多い。これは論理的にも経済的にも成立しません。

投資なくしてリターンなし。ビジネスの世界には揺るぎない原則があります。戦略構築、商品開発、人材育成、販売促進、情報発信、設備投資などなど、いずれも将来の成果を生むための“先行投資”が欠かせません。目先の出費を嫌って投資を避ければ、当然ながら未来の果実は小さくなります。

こうした経営者ほど「費用対効果」という言葉を口癖のように使います。しかし、その中身を理解していないことが多い。費用対効果とは本来、投下した資源に対してどれほどの成果が得られたかを測る結果論です。そもそも「費用」と「投資」を混同している時点で、経営の構造を正しく捉えられていないと言わざるを得ません。

費用とは使って終わりのコスト。投資とはリターンを生む仕掛けです。広告宣伝費を単なる出費と見るか、将来の顧客資産を築くための投資と捉えるかで、判断はまったく異なります。

他にも「お金をかけずに儲ける方法はありませんか?」と尋ねてくる経営者がいます。しかし、それは「努力せずに成果を出したい」と言っているのとほぼ同じです。経営は“原因と結果の科学”であり、投資という原因を伴わない成果は存在しません。

経営とは、限られた資源をどこに集中させるかという意思決定の連続です。だからこそ重要なのは「費用を減らすこと」ではなく、「どこに投資を集中させるか」です。すべてに手を出せば、どれも中途半端に終わる。一点集中・選択と集中こそが、リターンを最大化する唯一の道です。

「費用対効果病」に陥った経営者は、判断基準が“出費の多寡”になっています。一方、クレバーな経営者は“リターンの可能性”を基準に考えます。未来への布石を打つ勇気と、リスクを取る覚悟こそ、経営者が果たすべき本質的な役割です。

お金を使わない経営ではなく、お金を活かす経営へ。この発想転換ができた瞬間、経営は初めて「成長のステージ」へと進んでいきます。