戦略日記

少人数だからこそプロを使う #305

少人数だからこそプロを使う #305

中小企業の経営者を見ていると、何でもかんでも社内でやろうとする会社が少なくありません。チラシやホームページ、写真や動画を撮って編集する。SNSを運用する。採用の原稿を書く。ITシステムまで自分たちで何とかしようとします。

理由を聞けば、「外注するとお金がかかるから」と言います。確かに、社内でやれば外注費は発生しません。社員が慣れない仕事に何時間も費やし、社長までパソコンの前に座って、専門外の仕事に時間を使っています。そして、ようやく完成したものの、プロがつくったものと比べれば、やはりアウトプットされるクオリティの違いは歴然です。

ここで考えなければならないのは、単なる「外注費」と「内製化」の比較ではありません。限られた経営資源を、どこに投入するのか。これこそ戦略の問題です。

そして今、この問題を考えるうえで避けて通れないのがAIです。生成AIを使えば、文章も書ける。画像もつくれる。チラシもつくれる。動画も編集できる。これまで専門家に頼んでいた仕事の一部を、社内で短時間にできるようになりました。中小企業にとって、AIを活用しない手はありません。

しかし、ここで一つ勘違いしてはいけないと思います。AIが使えることと、プロの仕事ができることは同じではありません。たとえば、AIを使ってつくったチラシと、プロのデザイナーがつくったチラシを並べてみます。もちろんAIでも、それなりのものはできますが、誰に何を伝えるのか。どこに視線を集めるのか。何を削り、何を残すのか。写真、余白、文字の大きさ、情報の順序まで考え抜かれたプロの仕事には、やはり違いが出ます。

大企業には、豊富な人材をもとに専門部署もあります。広告、採用、経理、システム、それぞれに専門人材を配置することもできます。しかし、中小企業にはそれだけの人はいません。少人数だから内製化するのではありません。少人数だからこそ、プロへアウトソースする。自社にとって重要であり、自社にしかできない仕事に、人と時間を集中させる。その代わり、専門性が必要で、自社でなくてもできる仕事は、その道のプロの力を借りる。これは「丸投げ」とは違います。

何を自社で持ち、何を外部の力に任せるのか。その境界線を経営者が決めることです。特に考えたいのは、社長の時間です。たとえば10万円の外注費を惜しんで、社長が20時間、30時間を使ったとします。一見すると10万円を節約したように見えます。しかし、その時間に社長が本来やるべき仕事はなかったでしょうか。

お客をつくる。既存客との関係を深める。商品を磨く。地域を回る。競争相手を調べる。これから会社がどこで戦うのかを考える。社長にしかできない仕事は、いくらでもあります。ところが、目先の10万円を惜しんだために、最も貴重な「社長の時間」という経営資源を専門外の仕事へ投入してしまうのです。

これでは、節約しているつもりで、大きな機会損失を生んでいるかもしれません。ランチェスター戦略の基本は、弱者は経営資源が少ないという現実から始まります。少ないからこそ、分散してはいけない。少ないからこそ、重点を決める。少ないからこそ、選択と集中が必要になる。これは仕事のやり方についても同じです。

何でも自分たちでできる会社を目指す必要はありません。むしろ、自分たちが「やらない仕事」を明確にする。そのうえで、必要なところにはプロの力を借りる。そして、自社の人材と時間を、競争力を生み出す仕事へ集中させることが重要です。

中小企業の強さとは、何でも自社でできることではありません。限られた人と時間を、どこに集中させるのか。そして、自分たちでやるよりプロに任せたほうがよい仕事を、潔く手放せるかが鍵となります。

「何をやるか」を決めるだけが戦略ではありません。「何を自分たちでやらないか」を決めることも戦略です。アウトソーシングとは、単なる外注ではなく、限られた経営資源を一点に集中させるための、立派な「選択と集中」なのです。