戦略日記
3つの戦略眼 #255

経営を語る際に「鳥の目・虫の目・魚の目」という三つの視点がよく例えに使われます。これは単なる比喩にとどまらず、ランチェスター戦略や孫子の兵法にも通じる重要な経営の原理です。
まず「鳥の目」とは、上空から市場全体を俯瞰する視点です。鳥のように広い範囲を見渡すことで、自社がどの位置にいるのか、競合がどのような勢力分布をしているのかを把握することができます。孫子は「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」と説きました。相手の力と自分の力を冷静に見極めることが、戦いの前提条件です。経営においても、鳥の目で全体像を掴まなければ、勝ち筋を描くことはできません。
次に「虫の目」です。虫は地面に近く、細部を見抜く視点を持っています。これはランチェスター戦略でいう「弱者の戦略」、つまり局所一点集中の戦い方に重なります。顧客を細分化し、地域を限定し、商品やサービスを絞り込むことで、小さなマーケットであっても高いシェアを獲得できます。孫子も「兵は拙速を聞くも、未だ巧久を賭るを聞かざるなり」と語り、局地戦ではスピードと集中力が重要であると説きました。虫の目はまさに、この局地戦の感覚を磨くための視点なのです。
そして「魚の目」です。魚は水流を敏感に感じ取り、流れに従って泳ぎます。これは時代の潮流や社会の変化を読む力に通じます。市場や顧客ニーズの変化、技術革新や規制の流れなどに素早く対応できるかどうかが、経営の命運を分けます。孫子は「兵は水の如し」と言いました。水が地形に応じて流れを変えるように、戦略も環境変化に合わせて柔軟に調整しなければならないのです。
「着眼大局 着手小局」の教えの通り、鳥の目で全体を俯瞰し、虫の目で一点突破を図り、魚の目で時流を読む。この三つの視点をバランスよく用いることで、ランチェスター戦略はより実践的な経営の武器となります。戦略を知らずに経営を続けることは、視野を欠いたまま戦場に立つようなものです。
加えて強調したいのは、これらの視点は単なる経営の小手先のテクニックではなく、普遍的な法則として現代経営に生きているという点です。孫子の兵法が2500年以上を経ても、なお価値を失わないのと同じように、ランチェスター戦略もまた数理的な法則として企業経営に適用できる普遍性を持っています。
鳥の目・虫の目・魚の目を通じて学ぶことは、時代を超えて通用する「理にかなった経営の道」を歩むことに他なりません。