戦略日記

職人と経営者は何が違うのか #306

職人と経営者は何が違うのか #306

中小企業の社長には、職人気質の人が多いように思います。大工、料理人、美容師、整備士、製造業の技術者など、長年その道で腕を磨き、「これなら自分でもやれる」と独立していきます。実際、経営者にこれまでの経歴を聞いてみると、そうした人が実に多いと感じます。

良いものをつくれば、お客様は来てくれる。腕さえよければ、仕事はなくならない。真面目にやっていれば、会社は続いていく。そう信じて起業する人は少なくありません。無理もないことだと思います。

それまでの人生で、一番多くの時間を使ってきたのは「腕を磨くこと」だからです。何年、何十年と修業し、腕を磨いてきた。その努力があったからこそ独立できたわけです。ところが、いざ経営を始めてみると、思うようにいかない。

腕には自信がある。商品にも自信がある。お客様からの評判も悪くない。それなのに、経営が安定しない。忙しい割に利益が残らない。仕事が切れると不安になる。資金繰りに追われる。社長自身が休めない。

なぜなのでしょうか。ここに、職人型経営者の大きな盲点があります。「腕を磨くこと」と「経営すること」は、まったく別の話なのです。どれだけ腕のいい大工でも、仕事がなければ売上は立ちません。どれだけ料理がおいしくても、お客様が来なければ店は続きません。どれだけ高い技術を持っていても、その価値を買ってくれる人がいなければ利益にはなりません。

会社は、商品やサービスが良いという理由だけで永続するわけではないのです。品質を上げる修業や努力はしてきたが、経営者になるための修業は、どれだけしてきただろうか。誰をお客様にするのか。どの地域で商売するのか。何を一番の商品にするのか。競争相手とどう違いをつくるのか。どうやって新しいお客様と出会うのか。どうすれば一度買っていただいたお客様から、繰り返し選んでもらえるのか。こうしたことを体系的に学ぶ機会がないまま、経営者になる人は少なくありません。

だから経営が苦しくなると、さらに自分の得意なところへ戻ります。もっと腕を磨こう。もっと良い商品をつくろう。もっと丁寧な仕事をしようと目に見える戦術へ傾注していきます。

しかし、問題の原因がそこになければ、いくら腕を磨いても経営は良くなりません。商品をつくる力と、会社を経営する力は違うからです。良い商品だから売れるのではない。腕がいいから会社が続くのでもない。良い商品を、必要としている人に知ってもらい、選んでもらい、買ってもらう。そして、一度きりではなく、繰り返し選ばれる関係をつくっていく。これが経営の根幹である「お客づくり」です。

そして、それを社長個人の勘や経験、偶然に任せてはいけません。どの商品で戦うのか。どの地域に力を入れるのか。どんな客層に狙いを定めるのか。限られた人、時間、お金をどこへ集中するのかを決める。これらの戦略が必要になります。

職人として一流になるには、腕を磨かなければなりません。同じように、経営者として会社を永続させるには、経営を学ばなければならないのです。私は、腕のいい職人ほど経営を学んでほしいと思っています。せっかく磨いてきた技術がある。良い商品がある。お客様に喜ばれるサービスがある。それを「経営を知らなかった」という理由だけで、途絶えさせてはいけないからです。

職人としての修業の先に、経営者としての修業がある。良い商品やサービスをつくるだけで終わらせない。それを必要とする人へ届け、利益を残し、次の仕事へつなげていく。良い仕事を、続けられる仕事にする。そのために経営を学び、戦略を持つ。これこそが中小企業を持続可能にするために欠かせないことだと思っています。