戦略日記
経営指針書をつくるだけでは経営は変わらない #235

中小企業の経営者の中には、「経営指針書をつくれば社員に理念が伝わる」「社内が一枚岩になる」と考える方が少なくありません。実際、経営理念やビジョン、方針などを言語化し社内で共有することは、組織づくりにおいて大切な第一歩です。
しかし問題は、「経営指針書をつくること」が目的化してしまうケースが後を絶たないことです。形式としての指針書が完成したことで、あたかも経営が前進したかのような錯覚に陥ってしまう。しかし現実には、内容が抽象的で戦略が曖昧なままでは、社員の納得も行動も生まれません。
大切なのは、経営指針書の“中身”です。何を成し遂げたいのかという「理念」だけでなく、それをどのように実現していくのかという「戦略」が明確でなければ、社員にとってはただのスローガンに過ぎません。ビジョンに根拠がなく、目標に具体性がなく、戦術に現実味がなければ、社員は指針に信頼を置くことができず、実践にもつながらないのです。
特に若手世代においては、「この会社はどこへ向かっているのか」「自分の役割は何か」といったことが明確でなければ、働く意義を感じにくい時代です。理念や価値観だけを語っても、それを裏付ける戦略や実行可能なプランがなければ、共感は生まれても行動には結びつきません。
経営指針書は、経営者の想いを言葉にするだけでなく、それを「実行できる形」に落とし込む設計図であるべきです。そこには、具体的な戦略、根拠に基づいた数値目標、社員と共有するための仕組みづくりが必要です。
経営指針の中に、現場で動く社員が「なるほど、だからこう動けばいいのか」と納得できる戦略と仕組みがあるかどうか。そこにこそ、経営指針書の真価と意義が問われているのです。